専門家の声

臨床美術と企業

社員のリフレッシュだけでなく、ビジネスコミュニケーションへの展開の可能性も探っていきたい。馬渕 聖子 氏 ー凸版印刷株式会社 人事労政本部労政部ー

労働者のメンタルヘルス不調の未然防止対策としての臨床美術

 2015年に労働者のメンタルヘルス不調の未然防止対策としてストレスチェックの実施が義務付けられましたが、弊社でも以前より、メンタルヘルス対策を課題として取り上げ、労働組合と話し合いながら様々な制度を作りあげてきました。現在のストレスチェックに先駆けて「こころの健康診断」を実施、カウンセラーを採用・育成し、カウンセリングを行うなどの体制も整えてきました。こうした取組みの末に行き着いたのは、やはり、いかにメンタルヘルス不調を「未然防止」するかということでした。未然防止のために、制度やカウンセリングとはまた違う角度でなにかできないかと模索していた2009年、臨床美術に出会いました。

社員のこころのリフレッシュプログラム

 臨床美術講座を「アートサロン」と名付け、社員のこころのリフレッシュプログラムという位置づけで、社内で実施することに決めたものの、当初は、臨床美術って何?本当にこころのリフレッシュに役立つの?というところから社内での認知を高めていかねばなりませんでした。そのため、本社の本部長クラス、総務部門の責任者、関連会社の社員の方などを対象に、何度か体験会を実施し、まずは臨床美術を知ってもらうことから始めました。その結果、頭のリフレッシュにもいいし、感情を素直に吐き出せて自分らしさを発見できるという高評価を得、正式実施が始まりました。

 現在では、本社をはじめ、全国13事業所で定期的にアートサロンを開講しています。本社の場合は隔週水曜日の全4回コースで、仕事が終わった18時半ごろから10~20名ほどが会議室に集り、制作体験を行っています。

 受講後のアンケートでは、「アートサロンに満足されましたか」という問いには約9割の人が満足したと答えています。また「リフレッシュプログラムとして有効でしたか」という問いには、約8割が有効だと回答しています。

 受講者からは、普段意識していない味覚、聴覚、触覚を刺激されて非常にリフレッシュできた、気分転換できたという感想が多く聞かれます。さらに、臨床美術では自分が感じたものを素直に表現しますが、そうして生まれた作品を鑑賞会などで臨床美術士の方が具体的な言葉で受け入れ、ほめてくださいます。そこから、自分の考えや発想は決して間違っていない、素直に表現をしてもいいんだということに改めて気付く人も多いようです。

 臨床美術を更に多くの場面に展開しようということで、新入社員研修や50歳以上を対象にしたライフプラン研修(定年退職後の財産形成や健康管理、生きがいなどを夫婦で学ぶ)、親子のコミュニケーションを深める「夏休み親子アートサロン」に臨床美術の制作体験を組み込んでいます。平成24年度からは、仕事と育児の両立支援の一環として、育児休業中の社員とその子どもを対象とした「はぐくみアートサロン」も開催しています。乳幼児でも楽しめるプログラムを用いて、育児期のこころのリフレッシュと親子の絆の醸成を図り、復職に向けた前向きな気持ち作りを後押ししています。

 今後は、ストレスチェック受診後のフォローアップとしての活用や、リフレッシュだけでなく、顧客や、上司・部下とのビジネスコミュニケーションへの展開の可能性も探っていきたいと考えています。

馬渕 聖子 氏 ー凸版印刷株式会社 人事労政本部労政部ー