―永田さんは、東京の設計事務所に勤務後、鎌倉で住宅設計の仕事に就き建築士として10年間活躍。一区切りついた頃、改めて建築を勉強し直したいと向かった京都で、臨床美術に出会いました。
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(永田さん)
「ちょうどその数年前に父が認知症と診断されました。お医者さんから説明はあったのですが、当時の僕には認知症の知識が全くなくてピンときませんでした。そうこうしているうちに転倒が原因で父が寝たきりになり、長期の入院生活を送ることになりました。そういうことがあった後でしたので、父に対して何か自分が出来ることはなかったのだろうか、何が出来ただろうかと、漠然と思っていたところに<アートで認知症を予防・改善>という記事が飛び込んできたのです」
―もともと絵を描くことが好きで、建築のスケッチやパースなど、仕事でも「描く」機会をたくさん持っていた永田さん。実家に帰る機会を利用して、東京・御茶ノ水にある芸術造形研究所で5級から3級まで取得しました。現在、建築の仕事を手掛ける一方で、「京都<臨床美術>をすすめる会※」のメンバーとしてさまざまな現場を経験しています。
(永田さん)
「京都<臨床美術>をすすめる会の現場では、道具出しを中心にセッションをサポートする補助スタッフというポジションを設けています。臨床美術士として講座に参加したいという時、実際の講座の雰囲気を体験できるだけでなく、メインやサブスタッフの動きを見ることができ、経験を積んだ先輩方の考え方を学ぶこともできます。講座の振り返りに参加させてもらうと、2級や3級の方が自分とは全然違う視点で臨床美術に関わっていることがわかりました。参加者の様子をつぶさに見る洞察力や、参加者さんへの関わり方が違うのです。現場での経験が大きな学びにつながることは確かなのですが、それだけでは足りない何かを皆さんは持っているように思え、3級を取ることが自分にプラスになるだけではなくて、参加者さんにもプラスになるということがよくわかりました。3級を取得して良かったことは、セッションにおける心構えやプログラムの理解力といった臨床美術士としての根っこの部分を、養成講座の中で自問自答しながら身につけることが出来たことです。セッションを行うたびに様々な課題に直面しますが、立ち返ることのできる臨床美術士としての原点を築くことができたように感じています」
(このコンテンツは、当協会会報誌JCAA News 45号「臨床美術士を訪ねて」の記事をご本人の許可を得て再編集し、ご確認いただいたものです。)
※「京都<臨床美術>をすすめる会」は2017年6月に「京都<臨床美術>をすすめるネットワーク」に名称を変更しました。